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ノロウイルスフリーかきの生産法確立及び養殖かき品質 向上のための研究

(1)近年、ノロウイルスによる急性胃腸炎の原因食品としてカキなどの二枚貝が取り上げられてからカキの消費量、価格は低迷傾向にあり、とりわけ生食用マガキを多く生産してきた三陸沿岸域は深刻な状況に至るなどカキ産業全体に大きな打撃を与えています。業界からの「ノロウイルスフリーのカキ」生産法確立の強い要請に対し、ノロウイルスに関する基礎研究に平成14年から取り組んできたかき研究所はじめ、水産及び保健衛生の研究機関でも研究が行われていまするが、ノロウイルスの数を減らすことはできても完全に排除することには成功していないのが現状です。
本研究事業はカキによる健康被害の抑制に関する基礎研究として実施するものです。

(2)宮城のマガキは、北アメリカ太平洋沿岸やフランス各地に輸出され、アメリカ・カナダ・フランスにおいて新たな産業種として定着し、さらにこれらの国々からイギリスや南アメリカのチリなどへと移植され、世界各地に根付いています。今日、産地間競争は激化しており、かつての宮城の種ガキのような国際競争力のある産品を創出した我国のカキ産業の優位性は失われています。
  本研究事業はこのような状況下で遺伝育種的手法を取り入れて国際競争力をもつ優れたカキの開発を目指し取り組むものです。本事業はかき研究所設立以来実施してきたカキ品種の系統維持事業の延長上に位置づけており、上記(1)の成果を応用展開しようとするものです。

本事業は、東北大学大学院農学研究科との共同研究として行われます。

平成27年4月1日から平成28年3月31日までの取組み
マガキがノロウイルスを取り込むしくみの解明
国内外で発行された最新の文献から、ノロウイルス除去に関連しそうな情報を広範囲に収集し、 海水中のノロウイルスが、マガキ鰓の上皮細胞および消化管上皮細胞が持つ繊毛表面のシアル酸という糖鎖と特異的に結合することに着目した。そこで、シアル酸を特異的に認識するレクチンという糖タンパクを用いて、あらかじめ繊毛表面の糖鎖をマスクし、ノロウイルスの結合を阻害するか否かを、消化盲嚢の組織片を用いて検証した。植物レクチンのニホンニワトコレクチン (SSA) を用いて組織片を前処理した後、遺伝子組換えにより作製されたノロウイルス中空粒子( VLP 、北海道大学・佐野大輔博士から供与されたもの)を含む人工海水に浸漬して、 VLP の結合性を調べた。その結果、 SSA は確実に繊毛を含む上皮細胞表面へ結合した。 SSA 前処理区では、ノロウイルス中空粒子の組織片への結合は、前処理なしの実験区よりも抑制されなかった。さらに、ノイラミニダーゼというシアル酸除去酵素で組織片を処理すると、 SSA 、 VLP の結合はともに有意に低下した。これらのことから、 SSA と VLP はともにシアル酸を介して消化盲嚢組織と結合していること、 SSA の前処理によりシアル酸がマスクされ、 VLP の結合が阻害されたと考えられた。

 

平成26年4月1日から平成27年3月31日までの取組み
マガキがノロウイルスを取り込むしくみの解明
ノロウイルスフリーカキの生産法確立のためには「カキにノロウイルスを取り込ませないこと」、そして「すでにカキ体内に取り込まれているノロウイルスを除去すること」の2つについて、明確な解決策を見いだすことが不可欠である。しかし、カキ体内からのノロウイルス除去に関する基礎研究は、世界的に見ても手詰まり状態にある。
  そこで本年度は昨年度に引き続き、国内外で発行された最新の文献から、ノロウイルス除去に関連しそうな情報を広範囲に収集することとした。その結果、海水中のノロウイルス、特に病原性の強い GII.4 型など特定の遺伝子型を持つウイルスは、マガキ鰓の上皮細胞が持つ繊毛表面のシアル酸という糖鎖と特異的に結合することが示唆された。そこで、シアル酸を特異的に認識するレクチンという糖タンパクを用いて、あらかじめ繊毛表面の糖鎖をマスクし、ノロウイルスの結合を阻害するか否かを検証した。昨年度の予備実験で鰓繊毛への結合が認められた、植物レクチンのニホンニワトコレクチン (SSA) を用いて鰓小片を前処理した後、遺伝子組換えにより作製されたノロウイルス中空粒子(北海道大学・佐野大輔博士から供与されたもの)の結合性を調べた。その結果、 SSA は確実に繊毛を含む上皮細胞表面へ結合したものの、ノロウイルス中空粒子の鰓への結合は、レクチンなしの実験区と同様で抑制されなかった。今後さらなる検討が必要であると考えられる。

 

平成25年4月1日から平成26年3月31日までの取組み
マガキがノロウイルスを取り込むしくみの解明
  海水中のノロウイルス、特に病原性の強い G U .4 型など特定の遺伝子型を持つウイルスは、マガキ鰓の上皮細胞が持つ繊毛表面のシアル酸という糖鎖と特異的に結合することが示唆されている。本研究では、シアル酸を特異的に認識するレクチンというタンパクを用いて、あらかじめ繊毛表面の糖鎖をマスクし、ノロウイルスの結合を阻害する可能性を検証した。本年度は、切り出したマガキ鰓の小片をレクチンと反応させた時の結合の有無を調べた。標品の入手が容易な小麦胚芽レクチン (WGA) 、イヌエンジュレクチン (MAM) 、そしてニホンニワトコレクチン (SSA) の3種類の植物レクチンを反応した結果、反応性は低いものの WGA と SSA について鰓への結合が認められた。光学顕微鏡下の観察から、繊毛を含む上皮細胞表面への結合が確認された。

 

平成24年4月1日から平成25年3月31日までの取組み
マガキがノロウイルスを取り込むしくみの解明
  海水中でのノロウイルスの存在様式については不明な点が多い。カキに取り込まれたノロウイルスは消化盲嚢に局在することから、カキの餌となるプランクトン等の微小な有機粒子に付着していると考えられるが、最近ではフリーの状態で海水中に存在するという報告もある。
 
本年度は、ノロウイルス代替中空粒子の試験供与を受けたので、これを用いてフリーの状態でマガキ体内に取り込まれるかを調べた。微小な有機粒子を完全に除去した試験海水を用意し、ノロウイルス代替中空粒子を懸濁した水槽でマガキを飼育した。ノロウイルス代替中空粒子がマガキ体内のどこに存在するかについては、組織標本を作製して調べることとした。
  その結果、外套膜と鰓にノロウイルス代替中空粒子の付着が認められたが、特異的なものかは不明であった。飼育開始2日後、 4 日後の個体において、体内にノロウイルス代替中空粒子が検出できなかった。昨年度、プランクトンと共存させた実験区では取り込まれた代替粒子を確認したことを考え合わせると、従来からいわれているようにカキの餌料と一緒に取り込まれる可能性の方が高いと考えられた。

 

平成23年4月1日から平成24年3月31日までの取組み
マガキがノロウイルスを取り込むしくみの解明
 
ノロウイルス代替粒子を用いてマガキ体内への取り込まれ方を調べることとし、本年度は他の有機物の存在が取り込まれやすさに関係するかどうかを調べた。プランクトンをはじめ微小な有機粒子を完全に除去した試験海水と濾過後に植物プランクトンを添加した試験海水を用意し、ノロウイルス代替粒子を懸濁してマガキを飼育した。
 どちらの実験区でも飼育開始2日後の個体から体内にノロウイルス代替粒子が検出されるようになった。プランクトンと共存させた実験区の方が取り込まれた代替粒子の数が多く、またすべての個体から代替粒子が検出された。すなわち、ノロウイルスは従来からいわれるカキの餌料となるプランクトンと一緒に取り込まれるだけではなく、単独でも取り組まれることが確実となった。

 

平成22年11月11日から平成23年3月31日までの取組み
加温飼育によるマガキ消化盲嚢の細胞形態および酵素活性の変化
 ノロウイルスはカキの消化盲嚢に局在するため、試験的な排除法としてはカキの基礎代謝を亢進し、特に消化・排泄を促進する目的で「加温・給餌飼育」が主に用いられている。しかし、「加温・給餌飼育」を行うことによって、カキの消化盲嚢の状態が「どのように」、そして「どの程度」変化したのかを観察した例はほとんどないことから、本研究では「加温・給餌飼育」による消化盲嚢の変化を組織学的、酵素化学的な面から評価することを目的とした。
  水温10℃で飼育したマガキ(対照区)に対し、水温20℃で飼育した「加温区」を設けた。両飼育区のマガキに対して餌料の浮遊珪藻Chaetoceros gracilisを1〜2億cell/カキ個体となるように投与する「加温・給餌飼育」を行った。飼育期間は最長14日間とした。両飼育区のカキについて消化盲嚢に含まれる酵素の活性をAPIZYMというキットを用いて測定した。その結果、測定できた19酵素のうち5酵素で「加温区」個体の方が高い活性を示したものの大きな差ではなく、またその他の酵素の活性に違いはみられなかった。
  先に観察した組織学的な知見と考え併せると、加温・給餌は、消化盲嚢の働きを活性化できる可能性はあるものの、消化盲嚢の状態を大きく変えるほどの影響を与えるものではないと考えられる。このことから「加温・給餌飼育」の効果は限定的であることが明らかになった。
 

 

「かきなど二枚貝の特性を生かした環境評価法に関する研究

 
海洋環境の汚染や水産資源の減少等の問題が海に囲まれた我国の経済社会、国民生活の安定を脅かしています。沿岸環境の保全は、水棲生物ばかりでなく、周辺で生活する人間にとっても重要であることは云うまでもありません。沿岸環境への悪影響を未然に防止し、良好な環境維持、向上は不可欠であり、沿岸環境評価手法など様々な科学的知見の充実が求められています。
  沿岸環境の良否や変化を評価する指標としては、水質や底質などの物理化学的項目が主に用いられてきましたが、近年、環境評価に生物指標(バイオマーカー)を導入することは必須になってきております。
  二枚貝類がバイオマーカーとして最適だと考えられることから、本事業はマガキを対象動物とし、評価項目や評価基準を研究し環境評価法を確立しようとするものです。なお、本事業は、東北大学大学院農学研究科との共同研究として行われます。

平成27年4月1日から平成28年3月31日までの取組み
マガキ血球遺伝子について、環境ストレスに対するバイオマーカーとしての特性評価
金属に対する高い結合性を持ち、必須ミネラルの維持や重金属の解毒に関わるメタロチオネイン IV 型 (MT4) 遺伝子と、高水温ストレスをはじめ広範なストレスに反応するとされる熱ショックタンパク 90(HSP90) 遺伝子のストレス時の発現の変化を調べた。その結果、 MT4 は水温変化に対してはあまり鋭敏ではないが、低酸素ストレスには反応し、高発現することが明らかとなった。一方、 HSP90 は高水温(養殖現場の水温 16 ℃時に 25 ℃)曝露に対して有意に高い発現を示した。これらのことから、複数の遺伝子を組み合わせて評価に用いることが重要であると考えられた。

 

平成26年4月1日から平成27年3月31日までの取組み
HiCEP 法によるマガキ血球遺伝子の網羅的発現解析法の適用
 本年度から、放射線医学総合研究所(放医研)との共同研究として、 HiCEP 法によるマガキ血球遺伝子の網羅的発現解析法の適用を本格的に行うこととした。マガキの血球を対象に、これを顆粒球と無顆粒球の2つの細胞亜集団に分画して、亜集団間における遺伝子発現の違いを解析した。その結果、 33,000 を超える遺伝子の発現が確認された。そのうち、顆粒球のみで発現しているか、もしくは非常に高く発現している遺伝子、逆に無顆粒球のみで発現しているか、もしくは非常に高く発現している遺伝子を合わせると、 5,344 遺伝子にのぼった。顆粒球で非常に高く発現している遺伝子 2,504 のうち、 16 について全配列を決定することを試みた。その結果、 16 遺伝子すべてを特定することはできなかったが、金属に対する高い結合性を持ち、必須ミネラルの維持や重金属の解毒に関わるメタロチオネイン IV 型が顆粒球特異的に高発現していることを明らかにした。

 

平成25年4月1日から平成26年3月31日までの取組み
鋭敏な反応を示すマーカーの探索
 キチナーゼは安定した酵素であり、健全個体における標準値を定めることができる分子であると考えられた。逆に微妙な変化に対し、鋭敏な反応を示す分子ではないと思われるので、環境の大きな変化、あるいは中長期的な変化の指標としては有用であると評価できた。
  そこで本年度からは、急性的な環境ストレスに応答し、鋭敏な反応を示すマーカーの探索を開始した。有力な候補として、すでに遺伝子配列が決定されていて、他の動物でもバイオマーカーとして知られる熱ショックタンパクを選び、高温刺激( 10 ℃から 20 ℃および 15 ℃から 25 ℃へ短時間で水温を変化させる)による 24 時間後のタンパク発現量の変化を調べた。結果は予想に反してタンパク量の有意な変化はみられなかった。一方、 15 ℃から 25 ℃区において、遺伝子の発現量は上昇したことから、今回の条件はタンパクへの転写を把握できていないと考えられ、設定を再考する必要がある。

 また、本年度末に放医研との共同研究として HiCEP 法によるマガキ血球遺伝子の網羅的発現解析法の適用を開始した。現在のところ解析を継続中であるが、マガキの環境ストレス遺伝子の発現動態を明らかにして、マーカーに適した遺伝子を決定することができると考えられる。

 

平成24年4月1日から平成25年3月31日までの取組み
キチナーゼの特性について検討
 昨年度、有力なバイオマーカーの候補として外套膜および体表粘液に存在するキチナーゼを見いだしたので、本年度はキチナーゼの特性についてより詳細な検討を行った。
  その結果、マガキのキチナーゼには 3 種類のアイソタイプがあるが、外套膜のキチナーゼは 1 種類であることが確認できた。また、季節、水温、そして pH の違いによる活性の変動は小さく安定であった。活性の個体差も小さかった。すなわち、キチナーゼは安定した酵素であり、健全個体における標準値を定めることができる分子であると考えられる。逆に微妙な変化に対し、鋭敏な反応を示す分子ではないと思われるので、環境の大きな変化、あるいは中長期的な変化の指標としては有用であると評価できた。

 

平成23年4月1日から平成24年3月31日までの取組み
バイオマーカーの候補となる生体防御因子の探索
  本年度は予定していた実験材料が津波によって流失してしまい、本格的な実験を行うことはできなかったが、新潟県佐渡島加茂湖産のマガキを用いてバイオマーカーの候補となる生体防御因子の探索を行った。その結果、外套膜および体表粘液に存在するキチナーゼが有用な因子となる可能性を示すことができた。

 

平成22年11月11日から平成23年3月31日までの取組み
マガキ外套腔液および外套膜外液を用いた生体防御能の評価
  二枚貝類の有する様々な因子・特性のうち、どれが評価項目として適切かを明らかにする必要があり、本研究では細菌感染などから自分の体を守るしくみ、すなわち生体防御機構が適切であると考えた。 特に本事業年度は、直接外界に接するため細菌に対する反応がよく起こっている2種類の体液、外套腔液および外套膜外液をマガキの生体防御能の評価指標として用いられるか検討した。 
  前年度の試験において、外套腔液および外套膜外液の両方で活性が認められた凝集素のレクチンについて条件を変えながら活性の変化を調べた。最初の試験として貝殻に小さな穴をあけ、そこから海洋細菌のVibrioを外套腔に注入し、一定時間経過後の外套腔液および外套膜外液のレクチン活性を測定した。その結果、注入後30分のレクチン活性は注入前のものより低下するが、2時間後にはほぼ最初のレベルにまで戻った。外套膜外液のレクチン活性はほとんど変化しなかった。次に、外套膜外腔にVibrioを注入して活性の変化を測定したところ、外套腔液、外套膜外液の両方で、時間経過とともに緩やかではあるがレクチン活性は高くなった。以上のことから、外套腔液および外套膜外液をマガキの生体防御能の評価指標として用いることができる。